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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1657号 判決

原告

日坂敏一

ほか三名

被告

石蔵美佳

主文

一  被告は、

1  原告添田千恵子に対し、金四三〇万一七八〇円及び内金三九〇万一七八〇円に対する昭和六三年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員、

2  原告添田功に対し、金三九四万九〇八〇円及び内金三五八万九〇八〇円に対する昭和六三年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員、

を各支払え。

二  原告日坂敏一、同日坂昌子の各請求の全て、原告添田千恵子、同添田功のその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告日坂敏一、同日坂昌子と被告間の分は、全部右原告らの、原告添田千恵子、同添田功と被告間の分は、これを一〇分し、その七を右原告らの、その三を被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告添田らの各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、

一  原告日坂敏一に対し、金一〇四〇万円及び内金九五〇万円に対する、

二  原告日坂昌子に対し、金九二〇万円及び内金八四〇万円に対する、

三  原告添田千恵子に対し、金一四三八万四二六八円及び内金一三〇八万四二六八円に対する、

四  原告添田功に対し、金一三七七万一五六八円及び内金一二五七万一五六八円に対する、

いずれも、昭和六三年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車と衝突事故を起こして死亡した自動二輪車の運転者及びその同乗者の父母が自賠法三条または民法七〇九条に基づき右自動車の運転者に対して損害賠償を請求した事件である。

一  (争いのない事実)

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

2  被告の本件責任原因(自賠法三条)。

3  亡日坂将之(以下、亡将之という。)、亡添田茂雄(以下、亡茂雄という。)の本件各受傷内容及び各死亡。

(一) 亡将之

頸部外傷Ⅳ型・右大腿部開放骨折・右骨盤骨折・全身打撲擦過傷等。

本件事故当日午後一一時一五分、舞子台病院において死亡。

(二) 亡茂雄

肺挫傷・胸椎骨折・右鎖骨骨折・右肋骨骨折・右上腕骨折等。

本件事故当日午後九月五三分、舞子台病院において死亡。

4  原告らと亡将之、亡茂雄との身分関係。

(一) 原告日坂らは、亡将之の父母。

(二) 原告添田らは、亡茂雄の父母。

5  損害の填補(ただし、自賠責保険及び任意保険関係。)。

(一) 原告日坂敏一 金一二八一万八三〇〇円

(二) 同日坂昌子 金一二二五万円

(三) 原告添田千恵子 金一二七七万二四〇〇円

(四) 同添田功 金一二二五万円

二  (争点)

1  原告ら主張の本件各損害額。

2  被告主張の、亡将之関係における過失(亡将之の速度違反・前方不注視・無灯火)相殺、亡茂雄関係における亡将之の本件過失の斟酌。

第三争点に対する判断

一  損害額 (各請求額 原告日坂敏一 金一〇四〇万円、同日坂昌子 金九二〇万円、原告添田千恵子 金一四三八万四二六八円、同添田功 金一三七七万一五六八円。)

1  原告日坂ら関係

(一) 亡将之関係

(1) 亡将之分

死亡による逸失利益 金一六六四万四〇三五円

(a) 証拠(甲二、三、六、原告日坂敏一本人。)によれば亡将之は、本件事故当時一七才(昭和四六年四月一四日生)であつたが、明石市貴崎五丁目所在藤本精工株式会社に勤務し、昭和六二年四月から昭和六三年八月まで一七か月の総収入が金一九〇万九〇八〇円であつたことが認められるから、同人の本件死亡による逸失利益は、次の各資料に基づいて算定するのが相当である。

ⅰ 基礎年収入 金一三四万七五八六円

〔(190万9080円÷17)×12〕≒134万7586円

ⅱ 就労可能年数・五〇年、生活費控除・五〇パーセント。

(b) 右各資料に基づき、亡将之の本件逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金一六六四万四〇三五円となる。(ただし、新ホフマン係数は、二四・七〇二。円未満四捨五入。)

〔134万7586円×(1-0.5)×24.702〕≒1664万4035円

死亡による慰謝料 金一一〇〇万円

亡将之の本件死亡による慰謝料は、金一一〇〇万円が相当と認める。

原告日坂らの相続

原告日坂敏一、同日坂昌子が、亡将之の右損害(逸失利益・慰謝料)賠償請求権を、各自の法定相続分にしたがい、その二分の一宛を各相続した。

(二) 原告日坂敏一固有分

(a) 治療費 金八万一六〇〇円

証拠(甲四の一、二、原告日坂敏一本人。)によれば、原告日坂敏一が亡将之の舞子台病院に対する治療費として合計金八万一六〇〇円を支払つたことが認められる。

(b) 葬儀費用 金八〇万円

証拠(甲五、右原告本人。)によれば、右原告が亡将之の葬儀費用を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての葬儀費用は、金八〇万円と認める。

(三) 右認定説示から、原告日坂らの本件損害の合計額は、次のとおりとなる。

(1) 原告日坂敏一分 金一四七〇万三六一七円

(2) 同日坂昌子分 金一三八二万二〇一七円(ただし、円未満切捨て。)

2  原告添田ら関係

(一) 亡茂雄関係

(1) 亡茂雄分

死亡による逸失利益 金二六六七万八一六〇円

(a) 証拠(甲七、八の一、二、九、乙六、証人田村。)によれば、亡茂雄は、本件事故当時一七才(昭和四六年四月一二日生)であつたが、神戸市西区枝吉三丁目所在有限会社ケイセイ興業に勤務し、一か月金一八万円の給料を受けていたことが認められるから、同人の本件死亡による逸失利益は、次の各資料に基づいて算定するのが相当である。

ⅰ 基礎年収 金二一六万円

ⅱ 就労可能年数・五〇年、生活費控除五〇パーセント。

(b) 右各資料に基づき、亡茂雄の本件逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二六六七万八一六〇円となる。(ただし、新ホフマン係数は、二四・七〇四。)

〔216万×(1-0.5)×24.702〕=2667万8160円

死亡による慰謝料 金五〇〇万円

亡茂雄の本件死亡による慰謝料は、金五〇〇万円が相当と認める。

(なお、同人の本件慰謝料の算定については、後記認定説示のとおりである。)

原告添田らの相続

原告添田千恵子、同添田功が、亡茂雄の右損害(逸失利益・慰謝料)請求権を、各自の法定相続分にしたがい、その二分の一宛を各相続した。

(二) 原告添田千恵子固有分

(1) 治療費 金三万五一〇〇円

証拠(証人田村)によれば、原告添田千恵子が亡茂雄の舞子台病院に対する治療費合計金三万五一〇〇円を支払つたことが認められる。

(2) 葬儀費用 金八〇万円

証拠(証人田村)によれば、右原告が亡茂雄の葬儀費用を支払つたことが認められるところ、本件損害としての葬儀費用は金八〇万円と認める。

(三) 右認定説示から、原告添田らの本件損害の合計額は、次のとおりとなる。

(1) 原告添田千恵子分 金一六六七万四一八〇円

(2) 原告添田功分 金一五八三万九〇八〇円

二  過失相殺関係

1  亡将之関係

(一) 証拠(乙一ないし六、八ないし一二、被告本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東方舞子駅方面から西方明石市方面に通じる幹線道路(国道二号線。以下、本件道路という。)上であるが、右事故現場付近では、平坦な直線状をなし、右事故現場から東方へも西方への見通しは良好であり、特に、東方への見通しは、約一〇〇メートルの地点まで可能である。

右道路は、右事故現場付近において、幅員七・二メートルの車道が車道中央線によつて北側東行き車線と南側西行き車線に区分され、北側車線に接続して幅員一・一メートルの路側帯が、右路側帯の北側にはガードレールが、各設置され、南側車線南端は車道外側線によつて画され、右車道外側線から南方へ幅員一・八メートルの側帯に接して幅員三・六メートルの歩道が、設置されている。

右道路の北側は、山陽電鉄・JR山陽線の軌道が平行して伸びており、右道路の南側は、海岸線に沿つてレストラン等が並ぶ程度で人家はなく、さらにその南方は海岸に接近している。

右道路付近の速度制限は、時速五〇キロメートルで、追越禁止・駐車禁止の交通規制がある。右道路付近の交通量は、車両が一分間に約三〇台、通行人は一〇分間に約一人である。

なお、右道路は、アスフアルト舗装路で、右事故当時乾燥していた。

(2) 被告は、本件事故直前、被告車を運転して右道路南側所在のレストラン「ビツグボーイ」を出て右道路北側東行き車線に入り東方舞子駅方面に向かう予定であつた。

そこで、被告は、右店舗内駐車場から被告車を発進させ、右「ビツグボーイ」店舗を出、前記歩道内に進出したところ、東方から車両一台が右店舗内駐車場内に向け左折すべく合図をして進行して来たので、そこで左寄りに一時停車して右車両を右駐車場内に入れ、再度発進した。

被告は、被告車の車頭が前記車道外側線付近に至つた時、一時停車して東行き車線及び西行き車線の通行車両が途切れるのを待つたところ、右両車線の通行車両が途切れたので右方(東方)を見たが進行車両も見えず、次いで左方(西方)を見たが同方向にも進行車両は見えず、しかも被告車助手席に同乗していた山田哲男も「よつしや」と声を掛けたので、被告車を東行き車線向け発進させた。

被告は、その際、右方から西進して来る車両はないものと軽信し左方を見ながらゆつくりと時速約一〇キロメートルの速度で右折して行つた。

しかして、被告車が緩い弧状で約八・八メートル進行し、右車両の左前部が前記車道中央線を越えた付近に至つた時、被告は、同人の目を右前方に向け自車右前方約一一・四メートルの地点に進来した原告車を発見、急ブレーキを掛けたが間に合わず、約三・八メートル進行した地点で被告車の左前部と原告車とが衝突して本件事故が発生した。

(3) 原告車は、右衝突後、本件道路東行き車線内を西北方向に約六・五メートル進行して転倒し、そのまま路上を約一〇・五メートル滑走して前記ガードレールに激突して右車線内に反射転倒して停止した。また、亡将之は、原告車が激突した右ガードレール付近の路上に、亡茂雄は、原告車が転倒停止した地点からさらに西方約七・二メートルの地点の路上に転倒した。

なお、原告車被告車のものと認められるスリツプ痕は、右事故現場道路上に認められなかつた。

(4) 亡将之と亡茂雄とは同じ中学校を卒業した同期の仲であつたが、亡将之は、本件事故当日午後九時頃からともに遊びに行くため原告車後部座席に亡茂雄を同乗させて原告車を運転していたものであるが、右事故直前、本件道路西行き車線上を西進し右事故現場において被告車と衝突した。

亡茂雄は、大柄な体格であつたが気の小さいところがあり自動二輪車が好きであるが機敏性に欠け免許証も取得せず、常日頃からただ他人の運転する右車両に同乗させてもらうばかりで自ら自動二輪車を運転しようとすることはなかつた。

(なお、亡茂雄が常時亡将之の運転する自動二輪車にのみ同乗させてもらつていたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。)

(5) 右認定各事実を総合すると、亡将之は、本件事故直前、原告車を運転し右事故現場付近に至つた際、制限速度時速五〇キロメートルを少なくとも約一五キロメートル超過する速度で前方不注視のまま自車を進行させた過失により右事故を発生させたと推認できる。(なお、被告は、原告車の右事故当時の速度につき、単に猛スピードと主張するのみで具体的な速度を主張しないし、右認定速度を超える速度については、これを認めるに足りる証拠はない。また、被告は、亡将之の本件過失として原告車の本件事故当時における無灯火進来を主張するが、右主張事実については、本件全証拠によつてもこれを認めるに至らない。)

(二)(1) 右認定説示から、亡将之の過失割合は、全体に対して三割と認めるのが相当である。

(2) 原告日坂敏一、同日坂昌子は、亡将之の父母であるから、所謂被害者側の過失として亡将之の本件過失を同人らの本件損害賠償請求に斟酌するのが相当である。

そこで、同人らの前記損害額を亡将之の右過失割合で所謂過失相殺すると、その後の同人らの本件損害額は、次のとおりとなる。(ただし、円未満四捨五入。)

日坂敏一分 金一〇二九万二五三二円

日坂昌子分金 九六七万五四一二円

2  亡茂雄関係

(一) 亡茂雄が本件事故当時亡将之の運転する原告車の後部座席に同乗していたこと、亡将之に右事故発生に対する過失が存在すること、亡将之と亡茂雄との本件同乗関係等については、前記認定説示のとおりである。

そして、亡茂雄が右事故直前亡将之の運転についてただ盲従するだけでこれに対して何ら助言忠告を与えなかつたことは、前記各認定事実から推認できるところである。

(二) ところで、直接被害者以外の者の過失を被害者側の過失として斟酌し得るとしても、右被害者側の過失とは、被害者と身分上ないしは生活上一体をなすと見られるような関係にある者の過失をいうものと解するのが相当である。

これを本件について見ると、前記認定の、亡将之と亡茂雄との本件同乗関係、原告添田千恵子、同添田功と亡茂雄は親子であるが、亡将之と原告添田らとは全くの他人であること等に照らせば、亡将之と原告添田らは右説示にかかる所謂被害者側の関係に立つとは認め得ない。

また、前記認定の事実関係の下では、亡将之と亡茂雄が一体的関係において原告車を運転していたとは認めることができない。

したがつて、原告添田らの本件損害賠償請求に亡将之の本件過失を斟酌することはできないというべきである。

ただ、亡将之の本件過失は、亡茂雄と亡将之との関係、亡茂雄が常日頃から亡将之を含む友人達の運転する自動二輪車等に同乗させてもらつていたこと、亡茂雄が本件事故当日亡将之運転の原告車に同乗させてもらつた事情等とともに、亡茂雄の本件死亡による慰謝料を算定するに当たり斟酌すべき諸事情の一つに当たると解するのが相当である。

しかして、右諸事情を総合勘案して判定したのが、亡茂雄の前記慰謝料である。

三  損害の填補

原告らが本件損害の填補として受領した金員を控除すると、同人らの右控除後の本件損害額は、次のとおりとなる。

1  原告日坂ら関係

原告日坂敏一の本件損害額は金一〇二九万二五三二円、同日坂昌子の同損害額は金九六七万五四一二円、原告日坂敏一の損害填補額は金一二八一万八三〇〇円、同日坂昌子の損害填補額は金一二二五万円であるから、原告日坂らの本件損害が右各損害填補により全額既に填補ずみであることは、その計数上明らかである。

2  原告添田ら関係

原告添田千恵子の本件損害額は金一六六七万四一八〇円、同添田功の同損害額は金一五八三万九〇八〇円、原告添田千恵子の損害填補額は金一二七七万二四〇〇円、同添田功の損害填補額は金一二二五万円であるから、原告添田らの右各損害額から右各損害填補額を各控除すると、その各残額は、原告添田千恵子において金三九〇万一七八〇円、同添田功において金三五八万九〇八〇円となる。

四  弁護士費用 原告添田千恵子分 金四〇万円

原告添田功分 金三六万円

本件損害としての弁護士費用(ただし、原告添田ら関係のみ。)は、原告添田千恵子につき金四〇万円、同添田功につき金三六万円と認めるのが相当である。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六三年八月三〇日午後九時二八分頃

二 場所 神戸市垂水区西舞子一丁目一〇番六号先国道二号線上

三 被害(原告)車 亡日坂将之運転、亡添田茂雄同乗の自家用自動二輪車

四 加害(被告)車 被告運転の自家用普通乗用自動車

五 事故の態様 原告車が、本件事故直前、本件道路(国道二号線)を西方へ向け直進し、本件事故現場付近に差し掛かつた際、被告車が、原告車の左前方(右道路の南側)から右道路内に進入したため、右両車両が衝突し、原告車は、はずみで対向車線ガードレールにも衝突して、転倒した。

以上

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